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釧路地方裁判所 昭和42年(わ)87号 判決 1967年7月07日

主文

被告人を懲役一年に処する。

押収してある写真二枚(昭和四二年押第三一号の1)はこれを没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、内妻工藤すずが山崎道子(当二三年)の手引きにより東京方面に逃げたものと信じ、これを詰問すべく、昭和四二年一月一六日午後八時ころ、釧路市城山町一二二甲賀アパート内の自室に山崎を呼び出し、同所において右工藤と共に、山崎に対し「よくも俺を騙したな。俺は東京の病院に行つていたけど何もかも捨ててあんたに仕返しに来た。硫酸もある。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」などと申し向け、さらに札束を示しながら「この通り金はある。金さえあればどんなことでもできる。」と申し向けた上、工藤をして暴力団員宅に電話をかけさせ、又「婆もぐるだから次は婆だ。お前には可愛いい子供もいるだろう。」と申し向けるなどして約二時間にわたり山崎を脅迫し、同女が許しを請うのに対し、同女の裸体写真を撮つてその仕返しをしようと考え、「五分間裸で立つておれ。」と申し向け、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影し、もつて強制わいせつの行為をなしたものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一七六条前段に該当する。なお弁護人は同法条の強制わいせつ罪が成立するには性欲を興奮、刺激させる目的をもつてなされる必要があり、本件は報復の手段としてなされたものなので同法条に該当しないと主張し、成程本件は前記判示のとおり報復の目的で行われたものであることが認められるが、強制わいせつ罪の被害法益は相手の性的自由であり、同罪はこれの侵害を処罰する趣旨である点に鑑みれば、行為者の性欲を興奮、刺激、満足させる目的に出たことを要する所謂目的犯と解すべきではなく、報復、侮辱のためになされても同罪が成立するものと解するのが相当であるので、右事実は本罪の成立の妨げにならない。

よつて所定刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、押収してある写真二枚(昭和四二年押第三一号の1)は、本件犯罪行為により生じた物で被告人以外の者に属さないので同法一九条一項三号、二項により被告人よりこれを没収し、訴訟費用につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

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